2019.05.08
高齢者はなぜ「迷惑」を口にするのか?長生きはめでたいことなのか?-“老い”をめぐる論文集の刊行
◆発表のポイント
“老い”をめぐるさまざまな問題を研究する「老年学」の重要性は増していますが、これまでこの分野は人文学分野との研究成果の共有が十分になされていませんでした。人文学分野に加え、医療や介護の分野からの視点や、異なる時代や文化圏などの観点から行った“老い”の捉え方や観念について、検討した研究成果をまとめた論文集を刊行しました。この分野について歴史的、比較文化的に考察する必要性があることを明らかにしました。
超高齢・人口減少社会を迎えた現代日本において、“老い”をめぐるさまざまな問題が噴出しています。こうした問題を研究するのが「老年学」という学問分野です。しかし、これまでの「老年学」研究では、人文学の分野との研究成果を共有が十分になされていませんでした。
この研究状況を踏まえ、本学大学院ヘルスシステム統合科学研究科の本村昌文教授、日笠晴香講師、吉葉恭行教授と東北大学学術資源研究公開センターの加藤諭准教授、福井医療大学保健医療学部の近田真美子准教授を中心としたプロジェクトチームは、人文学と「老年学」との架橋を試み、協働する基盤の構築を目指し、その成果をまとめた論文集『老い-人文学・ケアの現場・老年学』を制作。ポラーノ出版から3月28日に刊行しました。
プロジェクトでは、医療や介護の現場における“老い”の捉え方(第1部)、過去の日本における“老い”の捉え方や“老い”の観念(第2部)、日本と異なる文化圏における“老い”の捉え方や“老い”の観念(第3部)を検討。それぞれの論考をふまえ、①近代日本における「老年学」の草創期(明治末~大正期)では、人文学の研究が「老年学」の全体構想の中に位置づけられており、さまざまな分野を総合するという意識があったこと、②過去から現在まで「40歳」「40代」が身体的な問題から“老い”のはじまりと捉えられており、この年代の意味をあらためて考える重要性、③“老い”を考える際に「迷惑をかけたくない」という意識が日本において過去から現在にまで共通して見られたこと―といった点から、この意識について歴史的、比較文化的に考察する必要性があることが明らかになりました。
■書籍情報
書名:老い-人文学・ケアの現場・老年学
編者:本村昌文、加藤諭、近田真美子、日笠晴香、吉葉恭行
出版社:ポラーノ出版
刊行年月日:2019年3月28日